
「相続の話なんて縁起でもない!」
相談の現場でも、親御さんからこんな風に言われることが本当に多いです。
お気持ちはよく分かります。
でも実際には、相続が発生した後に
「親の本当の想いが分からない」
「兄弟姉妹で意見が分かれてしまった」
といったご相談を数多く受けてきました。
私自身も静岡で一人暮らしをしている高齢の母がいるため、この問題は他人事ではありません。
金額の大小にかかわらず、”心情のすれ違い”が大きなトラブルを生むのが相続問題の現実なのです。
今回は、「親が元気なうちに話しておきたい、お金と相続のリアル」について、実践的な対話の工夫をお伝えします。
なぜ「元気なうちの対話」がこれほど重要なのか
多くの方が「相続や実家のことは、その時になって考えればいい」と思いがちです。
しかし、終活の専門家として多くのケースを見てきた経験から言えるのは、
事前の話し合いがあるかないかで、その後の家族関係が大きく変わってしまうということです。
判断能力があるうちにしかできないことがある
いざ親が病気や認知症になってしまうと、本人の本当の意思を確認することは難しくなります。
特に遺言書は、判断能力があるうちでなければ有効に作成できません。
「あの時、もう少し話しておけば良かった」という後悔の声を、これまで何度もお聞きしてきました。
相続手続きは想像以上に複雑で時間がかかる
相続が発生すると、次のような手続きが一気に押し寄せます。
- 銀行口座の凍結解除手続き
- 相続税の申告(10ヶ月以内という期限あり)
- 不動産の名義変更手続き
- 各種契約やサービスの解約手続き
これらを親の意向が分からないまま進めるのは、精神的にも経済的にも大きな負担になります。
大切なのは、
「お金の話=家族の不和のもと」という固定観念を捨てて、
「家族の安心のための準備」として捉え直すことです。
相続でよくある3つの大きな誤解
長年この分野で相談を受けてきた中で、特に多い誤解をご紹介します。これらの思い込みが、後々のトラブルの原因になることが多いのです。
誤解1:「うちは財産が少ないから揉めない」
「うちは大した財産もないから、相続で揉めることはないよ」
実は、この考えが一番危険です。
家庭裁判所の調停件数を見ると、遺産総額1,000万円以下の案件が全体の約3分の1を占めています。
数百万円の預金や築古の実家一軒でも、「どう分けるか」「誰が管理するか」で深刻な対立が生まれることは珍しくありません。
むしろ財産が少ないからこそ、分け方が難しくなることもあるのです。
誤解2:「遺言書はお金持ちだけが書くもの」
これも大きな間違いです。
むしろ財産がそれほど多くない場合ほど、「誰が何を受け取るのか」を明確にしておくことが円満相続への近道となります。
小さな資産であっても、親の明確な意思が示されていることで、子どもたちの不公平感や疑心暗鬼を防ぐことができるのです。
誤解3:「実家は長男が継ぐのが当たり前」
昔ながらの慣習は、現代の家族のあり方には合わなくなっています。
実際には
- 兄弟姉妹が皆、遠方に住んでいる
- 誰も実家を引き継ぐ経済的・時間的余裕がない
- 実家の維持管理費用が重い負担になる
こうしたケースが増えています。話し合いを先送りにすれば、空き家問題というさらなるリスクが待っています。
親との対話を自然に始める3つの実践的工夫
「理屈は分かったけれど、実際にどう話を切り出せばいいの?」
そんな方のために、私がこれまでの経験から学んだ、親御さんに受け入れられやすい対話の工夫をお教えします。
工夫1:「思い出」を入り口にする方法
いきなり
「相続どうする?」
「財産の話をしよう」
では、親御さんが身構えてしまうのも当然です。
おすすめは、昔のアルバムや家族の写真を一緒に見ながら、自然な流れで話を始めることです。
「この家で過ごした思い出って、本当にたくさんあるよね」
「この写真の頃のお母さん、すごく嬉しそう。どんなことがあったの?」
「この家で一番思い出深い場所はどこ?」
こうした温かい会話から始めると、親御さんの表情も自然とほころび、
「この家をどうしていきたいか」という本音を聞きやすくなります。
物や思い出を通じて話すことで、感情的な対立ではなく、前向きな話し合いの土台を作ることができるのです。
工夫2:ニュースや社会問題を「きっかけ」にする方法
テレビや新聞で相続や空き家の話題が出た時は、絶好のチャンスです。
「最近、空き家問題がニュースでよく取り上げられているね」
「相続税の制度が変わったって聞いたけど、詳しく分からないなあ」
「ご近所の○○さんのお宅も、息子さんたちが相続で困っているらしいよ」
こうした話題から、「うちの場合はどうなんだろう」と自然につなげることができます。
他人事から自分事へのソフトな移行が、親御さんにとって受け入れやすいアプローチなのです。
工夫3:兄弟姉妹で「共通の場」を作る方法
一人で親に話を切り出すと、後で他の兄弟から「勝手に進めた」と誤解されるリスクがあります。
可能な限り、兄弟姉妹が一緒に話を聞く機会を作りましょう。
最近はZoomなどのビデオ通話もあるので、遠方にいても参加は可能です。
みんなで聞くことで、
- 情報の共有ができる
- 公平感が保たれる
- 後で「聞いていない」という話にならない
- 親も「みんなが心配してくれている」と感じられる
特に実家や預金の扱いについては、後で認識の違いが出ないように、「同席での確認」が効果的です。
実際にあった失敗事例から学ぶ
私がカウンセリングでお会いしたAさん(都内在住・50代長女)の事例をご紹介します。
Aさんは「母はまだ元気だから大丈夫」と思い、相続の話を先送りにしていました。
ところがある日、お母様が脳梗塞で倒れ、長期入院となってしまいます。
意識は戻ったものの言葉がうまく出ず、医師からは「在宅復帰は困難」と告げられました。
実家にはもう住めない状況となり、今後の介護資金や「空き家となった実家をどうするか」を巡って、
弟さんと深刻な対立が生まれました。
弟さんは「母は実家を売りたくなかったはず」と主張し、
Aさんは「空き家にするより売却すべき」と考える。
しかし、肝心のお母様の本当の想いを確かめる術はもうありませんでした。
結果として、兄弟の関係にひびが入り、
お母様の介護についても連携が取れない状況になってしまったのです。
「あの時、母が元気なうちに話し合っておけば…」
Aさんの後悔の言葉が、今でも忘れられません。
対話をスムーズに進めるための事前準備
相続の話し合いを成功させるために子ども世代ができる準備をご紹介します。
準備1: 家族の思い出を形に残す準備
アルバム整理や親の人生を振り返る機会を作ることで対話のきっかけを作ることができます。
写真だけでなく音声や動画で親の話を記録しておくことも後々の財産となります。
思い出を振り返りながら話すことで、
相続の話も「未来への前向きな準備」として自然に始めることができます。
準備2: 基本的な制度や情報の下調べ
話し合いをスムーズに進めるために、最低限の知識は身につけておきましょう。
- 相続税の基礎控除額(現在は3,000万円+600万円×法定相続人数)
- 遺言書の種類と効力の違い
- 不動産の相続時評価方法
- 空き家バンクなどの制度
「調べてみたら、こんな制度もあるよ」と情報提供することで、
親御さんも安心して話し合いに参加できるようになります。
準備3: 信頼できる専門家の連絡先確保
いざという時に頼れる専門家を事前に見つけておくことも重要です:
- 税理士(相続税関係)
- 司法書士(不動産登記関係)
- 行政書士(遺言書作成サポート)
- 終活ガイド・終活カウンセラーなど終活の専門家(全体的な相談)
専門家がいることで、
親御さんも「しっかりとした準備ができる」という安心感を持てるようになります。
まとめ:家族の絆を深める「心の相続」から始めよう
相続は「財産額の大小」より「準備の有無」で、その後の家族関係が大きく変わります。
親御さんがまだ元気で判断力もしっかりしているうちにこそ、
自然で温かい話し合いの機会を作ることが何より大切です。
相続の準備は決して「縁起でもない」ことではありません。
むしろ「家族を守り、絆を深める」ための大切な時間なのです。
今回ご紹介した3つの工夫
- 思い出から入る自然なアプローチ
- ニュースや社会問題をきっかけにする方法
- 家族みんなで共有する場作り
これらを参考に、まずは小さな一歩から始めてみてください。
そして、親御さんとの大切な思い出や人生の物語を、形に残すことも考えてみませんか?
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相続の話し合いのきっかけ作りとしても、また家族の絆を深める大切な記録としても、多くのご家族にご好評をいただいています。
終活の専門家が丁寧にインタビューを行い、プロの映像クリエイターが撮影・編集を担当します。
親御さんの人生の物語を美しい映像作品として残すことで、
相続という「物の引き継ぎ」だけでなく、「心の引き継ぎ」も実現できるのです。
ぜひ一度、ご相談だけでもお気軽にお声がけください。
あなたのご家族だけの大切な物語を、未来に残すお手伝いをさせていただきます。
小さな一歩が、家族の安心と信頼を育むことにつながります。
今日から少しずつ、親御さんとの大切な対話を始めてみませんか?
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